東京地方裁判所 昭和35年(ワ)2187号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕……を総合すれば、補助参加人は時計類の販売修理を業とし、自衛隊、立川雅叙園等に店舗を持つていたものであるところ、新たに厚木基地内に店舗を出すことについて米軍の許可をえたので、店舗を出すのに必要な資金を獲得すべく、引受参加人を通じて被告に対し融資の申込をなし、その結果開店のため最小限度必要と考えられた金一、〇〇〇〇〇〇円を冒頭認定のとおり被告からその使用目的としては、運転資金、商品たる各種時計類および材料の仕入資金とすることを明示して借受けることになつたが、その際、保証人としては、右金員の借受の目的が右認定のとおりの事情であることから、補助参加人の使用人であつて右厚木の店舗が開設された暁には同店の責任者となることを予定されていた訴外川島茂三郎とその実兄の原告の二人に、また原告に対しその所有の本件土地建物に抵当権を設定することを依頼することとなり、右依頼に基き、原告は補助参加人の被告に対する借受金債務につき、借受金の使用目的を前記のとおり明示し、その使用目的以外には使用せず、その使途を経理上明かにしておくべく、もしこれに違反したときは期限の利益を失つても異議はない旨の特約を付し、もつて冒頭認定のとおり被告に対し保証を約し、かつ本件土地建物に抵当権設定をするに至つたこと、他方引受参加人は補助参加人から、被告よりの融資を希望する旨をきいて以来、かねて補助参加人が引受参加人を通じ国民金融公庫から借受けた約金六〇〇、〇〇〇円が弁済されないままになつていた折から、補助参加人が被告から受けるべき融資の一部をもつて右の旧債の決済にあてることができるならば好都合と考えて、被告からの借受の手続をとることになつたが、被告が引受参加人に委託して中小企業者に対し貸金をするについては、その使途は設備資金および長期運転資金とすべく、原則として旧債の返済でないことが要件とされている関係上、この補助参加人の借受申込に対しても、前記のとおり使途は運転資金とし、補助参加人の営業品目である時計類および材料の仕入資金としてこれに応じたが、しかし実際には、引受参加人は被告から貸出を決定の上現実に引受参加人に支出交付された金一、〇〇〇、〇〇〇円のうち金七〇〇、〇〇〇円は補助参加人の意思に反して天引して旧債の決済に充当し、残りの三〇〇、〇〇〇円のみを補助参加人に現実に交付したこと、その結果補助参加人は予定した厚木基地内での開店は不可能となり、またその店の責任者となることを予定されていた川島も当然にその店の責任者となることができなくなつたことがそれぞれ認められる。以上のように、原告は、補助参加人が被告から金員をその使用目的を仕入資金と限定して借受けるについて、その使途につき特別の利害関係があるところから、右債務担保のため、被告と保証契約および抵当権設定契約をなしたのに、実際は被告の代理人である引受参加人が貸付金額の大半を旧債の決済にあてる目的のもとに貸付をなし、またそのとおり実行したのであり、原告としては、もし貸付がそのような趣旨で行われるのであればあえて保証または担保の提供をしなかつたであろうと考えるのが通常と認められる。従つて原告には契約をなす動機について錯誤があり、しかもその動機は予め表示されていたものであるから、前記保証契約および抵当権設定契約は結局要素の錯誤による意思表示として無効と認められる。(吉岡進)